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日ロ交流協会副会長朝妻幸雄氏:英国南部で起きた元ロシア情報機関員らへの神経剤による襲撃事件

英国南部で起きた元ロシア情報機関員らへの神経剤による襲撃事件についてたいへん厄介な状況が進みつつあります。

欧米諸国はこれまでクリミア問題、シリア問題でロシアのバッシングを続けてきましたが、いずれもほぼ賞味期限切れとなっています。クリミア問題では惰性的に制裁の延長を繰り返してきましたが、いまや半年ごとにその延長の理由さがしに苦労しています。平昌オリンピック前にはロシア人アスリートへのドーピング問題を喧伝したが大きな効果をもたらしませんでした。

イギリスとロシアは歴史的に不倶戴天の敵。このあたりで新しいロシア攻撃の材料を必要としていた時でした。この問題が起きたのは3月10日のことでした。大統領選挙の10日前です。プーチン氏を改めて非道な悪者にする絶妙なタイミングです。米国の大統領選挙への介入疑惑の信ぴょう性を印象付けたい意味もあります。しかしこの小細工は大統領選挙になんの効果ももたらしませんでした。ロシア国民は欧米のやり口を概ね知っていて、この小細工に乗らなかったのです。

プーチン大統領の圧勝を目にしたイギリスはこの小さな殺人未遂事件をこのまま終わらせたくない。そこで早速十八番の《制裁》を繰り出しました。目的はスクリパリ氏や娘に対する人道ではなく、また自国で起きたことへの潰されたメンツでもなく、最初からロシア制裁のネタ探し(もしくはネタ作り)にあったわけです。

いうまでもなく、《英国はBREXITによって決してEUで孤立していない》という印象を作ることも必要でした。そこで最も欧米諸国が纏まりやすい《悪のロシアを懲らしめる》という標榜を使う手法を取り、一粒で二度おいしい効果を狙いました。  

その方法が功を奏して米国やEU諸国に対する制裁同調の働きかけはうまくいきました。中にはオーストリアのように「反対しないが、連帯はしない」、「ロシアの関与が実証されたとしても、わが国はロシアとの対話の門を開けておく。厳しい時であるほど対話のチャンネルを維持することが大切だ」と冷静な対応を表明しています。別な言い方をすれば露骨な反ロ政策のむき出しによって世界の不安定化を醸し出すやり方にはついて行かないという意味です。

欧州でのロシア人外交官の追放はこれまで、英国が23人、ウクライナ13人、ドイツ、フランス、ポーランドの3国が各4人、リトアニアとチェコが3人となっています。ハンガリーは比較的親ロの姿勢をとってきましたが、英国、米国に説得されて欧州の一員としての立場から仕方なく一口乗って一人だけ追放しています。同じアングロサクソン系のオーストラリアが二口乗って二名です。ニュージーランドでは追放しようとして探したが「残念ながら我が国にはロシア人のスパイは居なかった」、と大人の対応をした国もあります。

昨日になってセルゲイ・スクリパリ氏と共に被害にあった娘ユーリア・スクリパリが急速に回復したとのニュースが流れています。ここでイギリス当局によるユーリア氏からの聞き取りの結果が注目されます。なんらかの新しい展開が始まるでしょう。間違いなく、ロシアの治安組織(またはその系列)によって襲撃されたという発表がなされるでしょう。

しかしもしこれがロシアバッシングのために意図的に仕組まれたものであるとすればとんだ茶番ということになります。

翻って我が国はどのように対応するのでしょうか。私は日本が現在にいたるまで本件で欧米諸国に同調しなかったことはたいへん賢明なことだと思っています。仮に例によって米国の圧力に従って制裁に加われば、これまで安倍総理がプーチン大統領と2012年以来21回に及ぶ対話を通じて築いてきた両国の政治・経済関係改善の兆しはすべて水泡に帰するでしょう。よほど慎重に対応をしないと森・プーチン会談、橋本・エリツイン会談の更にもっと前までセットバックする危険性さえあります。

以上